コラム

今週の内外経済金融情勢の展望

 6月の米国株価調整は米国経済のソフトランディング期待の高まりから一巡するかに見えたが、先週は米国証券会社ベア・スタンダーズ傘下のヘッジファンドが清算の危機にあることが伝わり、株価が反落した。同ヘッジファンドはサブプライムローン(信用力の低い個人に対する住宅ローン)債権への投資で多額の損失を出したと伝えられえた。米国ではファンドへの課税強化法案が議会に提出され、ファンドビジネスの環境悪化が株式市場に与える負の影響が懸念されている。
 しかし、米国経済のファンダメンタルズは全体として良好である。経済活動が堅調で早期金利引下げ期待が後退し、長期金利上昇懸念は残存しているが、インフレは抑制されており、金融市場は落ち着きを取り戻している。今週27日(水)にFOMC(連邦公開市場委員会)が開催されるが、金利は据え置かれる見通しである。原油価格、長期金利動向を注視する必要があるが、大きな混乱が生じるリスクは限定的と思われる。

 先週末にかけてのNY株価下落を受けて日本の株式市場がどの程度反応するが注目されたが、日本の株式市場は底堅く推移している。日経平均株価は6月21日(木)に18,240円にまで上昇し、本年2月26日終値18,215円を更新した。2000年5月以来、7年1ヵ月ぶりの水準に上昇した。
 株価上昇が当面の節目を抜けたため、当面は株価がもみ合う可能性が高いが、日本市場の出遅れ感は強く、底堅い推移を示す可能性が高いと思われる。今週は28日(木)に5月鉱工業生産指数、29日(金)に5月全国、6月東京消費者物価指数が発表される。事前予想よりも生産が強く、物価指数が高く発表されれば金利上昇要因となり、株価には下方圧力が生じると考えられる。

 6月19日(火)に発表された米国5月住宅着工件数は前月比−2.1%、年率147.4万戸を記録した。5月着工許可件数は前月比3.0%増の150.1万戸となった。住宅着工許可件数では1戸建て住宅の着工許可が減少し、1997年7月以来の低い水準になった。米国住宅投資の減少は完全には収束していないものの、減少には歯止めがかかりつつある。
 6月13日(水)に発表された米国地区連銀経済報告書(ベージュブック)は米国経済が過熱もせず、冷え込みもしない適度な状況にあることを示唆した。「ゴルディロックス・エコノミー」という言葉が使われることがあるが、「ゴルディロックス」は童話に出てくる少女の名前ある。彼女が物語の中で熱過ぎず冷め過ぎないスープにたどり着くことから、この言葉がインフレを引き起こすほど強くは無いが、失業が増えるほど弱くもない経済の状態を表すのに使われる。理想的な経済状態を表しているとも言える。サブプライムローンの焦げ付き、ヘッジファンドの調整などの問題を抱えてはいるものの、米国経済のファンダメンタルズは安定している。今週のFOMCで、FRBから経済、金融の現状についてどのような現状認識が示されるかが注目される。

 国内では29日(金)発表の物価指数に注目が集まるが、日本銀行は段階的に短期金利を引き上げる方針をかなりはっきりと示している。筆者は8月の利上げを予想しているが、金融市場は利上げの方針をかなり織り込み始めていると考えられる。
 国内10年国債先物利回りは5月から6月にかけて、米国長期金利上昇に連動して、1.9%水準から2.2%水準へと上昇した。しかし、米国長期金利上昇が一服したのちは、日本の長期金利上昇も停止した。29日(金)の物価指数によっては金利先高感が強まる可能性もあるが、国内長期金利大幅上昇のリスクは後退している。

 為替市場では、予想通り円安地合いが継続しているが、日銀の金利引上げ観測が強まれば、円高に為替レートが回帰する可能性がある。政策当局者の発言、物価指数に注目が必要である。

 通常国会の会期が12日間延長され、参議院選挙日程は当初見込まれていた7月22日から7月29日に先送りされた。安倍政権は選挙での敗北を回避するために選挙日程を変更したと考えられる。「消えた年金」記録問題で政府の責任が問われているなかで、政治的利害を優先する日程変更に対する国民の反発は強まっている。
 政府提案の国家公務員法改正案は天下りを根絶する法案ではなく、天下りを制度的に温存させる法案であり、この点について有権者が正しく事実を認識するなら、与党に対する有権者の厳しいスタンスは改善されない可能性が高い。

 世論調査では内閣支持率が大幅に低下し、30%を割り込む数値さえ発表され始めている。不支持率が50%を超す調査結果も示されている。参議院選挙の結果、与党が過半数を割り込めば、安倍首相の責任問題が浮上する。自民党町村派(清和会)幹部は、選挙での敗北が首相退陣をもたらさないことを強調するが、自民党内他派閥からは首相責任を問う声が噴出すると考えられる。
 野党は年金問題の責任追及、天下り廃止への対案の提示、社会保険庁改革案などについて、明確な見解を表示すべきである。参議院で与党が過半数を割り込むと、法案の国会通過が困難になる。内閣総辞職、衆議院解散などの可能性が一気に高まることになる。日本の政局は暑い夏に向かいつつある。

2007年6月26日
スリーネーションズリサーチ株式会社
植草 一秀

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